<後編>
セラピーではまず、マリさんのこころの中を整理することから始めました。
イライラしてついユウ君を叩いてしまうこころの内側…。
子育ても、仕事も一生懸命やっているつもりなのに、マリさんは人から批判されると「自分はダメだ」と思う。
そして自分をイライラさせて、それを他の人(この時はユウ君)にぶつけ、そのあとさらに「何もかもダメだ」と思ってしまう。
この負のスパイラルは、意識せずに始まるように思えて、止めることはできないと感じているようです。
わたしはここで、“自分の気分は自分が作っている” ということに気づいてもらいたい、と思いました。
つまり、刺激自体が気分ではなく、 刺激によっておこされた反応が気分だということ…“ こんな気分にさせられた”というのは、こんな気分に自分でしているということを理解する必要があります。
マリさんは、 外からの刺激に対して、自分はダメだと考えることによって自分をイライラさせる、という回路を使いやすいのですね。
セラピールームのイスに座り、少し静かにこころを整えてから「ひどいお母さんだね」と、陰で言われたときのマリさんに身を置いてもらいました。
マリさんの口元が少し動いたように感じました。
「マリさん、“わたしは悲しい”と言ってみて下さい」
「悲しい」といったとたんに涙がマリさんの頬を伝いました。
ひとしきり泣いたマリさんに、どんな気分か尋ねます。
「わたしこんなに悲しかったんですね。なんだかすっきりしました。」
マリさんの本当の気持ちは悲しみでした。そして「悲しい」と表現された気持ちは感じたら薄らいでいて、すっきりしました。
わたしたちはこの、感じると薄らいですっきりしてくる感情を“本物の感情”、いつまでも続くいやな感情を“ラケット感情”と呼んで区別しています。
“本物の感情”である悲しみにきづいた後のマリさんは、ユウ君を抱きしめたくなり「ごめんね」と言ったそうです。
突然抱きしめられたユウ君はちょっとびっくりしましたが、とてもうれしそうにママに甘えてくれたそうです。
「ごめんねユウ君」
…マリさん、言えてよかったね。